《日常生活におけるアトピー性皮膚炎のさまざまな悪化因子の除去法》



A:アトピー性皮膚炎の悪化因子の具体例

先に述べました通りアトピー性皮膚炎は100年以上前から、世界中の皮膚科医がその治療に取り組んできましたので、アトピー性皮膚炎がどのような状況で悪化するかについては多数の報告があります。そこで、これらの悪化因子を年代順に列挙し、患者さんが自分自身の悪化因子を探す際の参考となるよう重複を避けずに記載します。



1. アトピー性皮膚炎の悪化因子として歴史的に知られているもの

1886年: *22 暑さ、寒さ、気温の急激な変化、発汗、魚、卵、小麦、チョコレートなどの食物、絹やウールなどある種の衣類、全ての油類や油性軟膏、仕事、心配ごと、緊張や精神的動揺。これらの中で、最も古くから知られかつどの年齢層にもあてはまる最も大きな影響を与える因子は環境の変化です。
1950年:*24 季節的悪化、日照時間の短縮による冬季の皮膚炎の悪化。
1961年:*25 農村から都会への移住によるアトピー性皮膚炎の悪化。
1964年:*13 80%の患者は悪化因子として、精神的緊張や疲労を第一にあげている。冬の寒さ、乳児期の食べ物、発汗、ウール。(逆に、改善に関係したと思われる、単一の因子としては、転地がまず第一にあげられている。日当たりが良く、適度な気温と乾燥した気候の地域に移ることがよい結果をもたらしている。精神的緊張を避け、十分くつろぐ事、非特異的な外用剤、ステロイド外用剤、ステロイド内服薬、いつもいる環境から逃げ出すこと、一次刺激物を避ける。)ほとんど役立たないものとして、精神療法が挙げられている。
1976年:*27 皮膚の汚れやあか(皮膚皮垢)
1986年:*28 世界34カ国の皮膚科医の70%が臨床的な経験に基づき、精神的ストレスはアトピー性皮膚炎における頻度の高い悪化因子の一つであると感じている。
1994年:*8 接触抗原(バリア機能の低下が様々な物質による一次刺激反応を亢進させること、ステロイド外用剤を含め種々の抗原が遅延型反応を起こすこと)、空中抗原(ダニ、ほこり)、食物、微生物(ブドウ球菌、ピチロスポルム、カンジダ、上気道感染)、女性ホルモン、ストレス、気候の変化。
1995年:*29 ダニや食物抗原が即時型アレルギーを介してアトピーを悪化させるかは、疑問である。
1998年:*30 接触抗原(スキンケア製品、外用剤)、吸入抗原、細菌・真菌。ストレスによるアトピー性皮膚炎の悪化は患者さんの半数で認められる。気候。近年、非科学的な治療がアトピー性皮膚炎患者を混乱させている。
1998年:*17 非科学的治療、接触抗原(外用剤、保湿剤、スキンケア製品)、脱ステロイド。
2000年:*31 非科学的治療、脱ステロイド、アトピービジネス。





2. 歴史的にみてどの時代にも普遍的にみられる悪化因子

a) 精神的緊張、ストレス、過労、睡眠不足。これらは、現代日本の思春期から成人期の重症アトピー性皮膚炎患者さんにも大いにあてはまります。
b) 皮膚を通したさまざまな刺激あるいはかぶれ。近年本邦でも保湿剤やスキンケア製品の誤用による接触皮膚炎の合併を多くの患者さんはアトピー性皮膚炎の重症化と誤認しています。
c)食べ物や飲み物などのさまざまな経口的な悪化因子。





3. 1990年代に出現した悪化因子

ステロイド外用剤アトピー性皮膚炎を悪化させると自己診断しステロイド外用を無計画に中止した結果の重症化*17,31







B:アトピー性皮膚炎の悪化因子を見つけて除去するためのプログラム

個々の患者さん自身の悪化因子を見つけ、除去するための技術は、けっして特殊な方法ではなく、アトピー外来において日常的に行われているごく自然な方法です。



1. 悪化日を患者さん自身が自覚する習慣

悪化因子の検索の重要な第一歩は悪化日の自覚「今日はアトピーが悪化している」と気が付くことから始まります。たとえば、かゆみが増してきた。新しい湿疹が出てきた。もともとある、皮膚炎の赤さやかゆみが増してきた等を自覚することです。





2. 悪化の前日に悪化因子が作用

悪化因子の検索の重要な第一歩は悪化日の自覚「今日はアトピーが悪化している」と気が付くことから始まります。たとえば、かゆみが増してきた。新しい湿疹が出てきた。もともとある、皮膚炎の赤さやかゆみが増してきた等を自覚することです。
アトピー性皮膚炎は遅延方アレルギーが重要な役割を果たしている。*32 したがって、悪化日の前日に悪化因子が作用したと考え、悪化の前日に何か悪化因子がなかったかを振り返ります。
悪化因子は、
a)精神的緊張、ストレス、過労、睡眠不足や睡眠リズムの変調
b)皮膚の表面からの悪化因子
c)経口的悪化因子(食べ物や飲み物等)
の3つのグループ毎に詳しく振り返ります。





3. 悪化因子の候補の見つけかた

a)精神的緊張、ストレス、過労、睡眠不足や睡眠リズムの変調が作用するとしばしば顔面の皮膚炎の悪化として現れます。この因果関係の自覚のためには生活日誌の記録(起床、出社、帰宅、入眠時間、等)を継続すると良い。
b)皮膚の表面からの悪化因子の判定法:悪化している部位が限局している場合に疑う。皮膚のバリアが低下している皮膚炎部に長期間外用していると、化粧品、保湿クリーム、スキンケア製品のみならずステロイド外用剤や、白色ワセリンさえも悪化因子となりうる。
c)経口的悪化因子(食べ物や飲み物等)の判定法:全身性に悪化する場合以外にも、ときには手や足や顔だけの悪化もありうる。食べ物や飲み物で、一度悪くなると、3ないし4日悪化が続くことが多い。皮膚炎の悪化日の前日に経口的に摂取したものを悪化因子候補として記録する。繰り返し記録し、悪化の度に食べたり飲んだりしているものがないか検討する。





4. 悪化因子の確認方法

a)精神的緊張、ストレス、過労、睡眠不足や睡眠リズムの変調:皮膚科に生活日誌を持参し主治医とともに因果関係を検討。
b)皮膚の表面からの悪化因子の判定法:悪化している部位に外用しているあらゆる物を悪化因子候補と考え皮膚科に持参し、パッチテストを行う。
c)経口的悪化因子(食べ物や飲み物等):投与・除去テストを医師とともに行う。悪化因子候補ほ食物を2週間中止し、皮膚炎が改善するかを調べる。その後、2ないし3日連続的に摂取し皮膚炎の悪化が実際におこるかを確認する。このような投与除去テストをくり返し、アトピー性皮膚炎を悪化させない食生活を身につける。
なお、特異Ige抗体価を指標とした血液検査は経口的悪化因子の検索の目安としてはほとんど役にたたないことを各患者さんに指導します。*29
以上の方法でも経口的悪化因子が見つからず皮膚炎の悪化が続く際には先入観を捨て、できるだけ多くの食べ物の見直しを行います。






湿疹の出現に伴って二次的に現れる悪化因子の除去法

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