《湿疹の出現に伴って二次的に現れる悪化因子の除去法》



1. 二次的な皮膚バリア障害部への保湿剤やスキンケア製品の使用の禁止

アトピー性皮膚炎患者さんの本来の皮膚はすべすべしている
大多数のアトピー性皮膚炎患者さんは自分が乾燥肌であると感じています。これは実際に活発なアトピー性皮膚炎があると明らかな皮膚病変部のみならずその周囲の皮膚もガサガサしてくるのでアトピー性皮膚炎患者さんが自分の皮膚の状態から自分は乾燥肌であると感じるのは無理もないことです。しかし、われわれの研究で、前進がカサカサしたさめ肌(魚鱗癬)の患者さんは約10%であり、残りの90%のアトピー性皮膚炎患者さんの生来の皮膚はすべすべであることがわかってきました。*34-36

アトピー性皮膚炎患者さんにしばしば見られるカサカサした肌・ドライスキンはごく軽度の湿疹の存在による二次的な角層バリアの障害により生じています。従って、原則として、保湿剤やスキンケア製品は湿疹のある部位には用いてはなりません。保湿剤等ははっきりした湿疹の無い部位のみに塗って下さい。*37

湿疹のある部位の皮膚バリアは破壊されていますので限り無く安全とされるワセリンのように分子量が大きいものでもこのバリアの破壊された湿疹部の皮膚から吸収され、これが長期に及ぶとかぶれの原因になります。*38,39 健常人やアトピー性皮膚炎患者さんの健康な皮膚で安全性が確認されたセラミドをはじめとしたさまざまなスキンケア製品も湿疹のある部位に長期間塗りつづけるとかぶれの原因になります。湿疹部に用いる場合は、少なくとも、ステロイド外用剤を用い湿疹をなおす治療をしっかり行い、湿疹がほぼ治ったところからごく短期間に限り補助的手段として保湿剤を用いるべきであることを十分に理解する必要があります。*40





2. ステロイド剤そのものがアトピー性皮膚炎の悪化因子として作用するのを防ぐ具体的な方法

《ステロイドの副作用の発生をふせぐ塗り方》
外用量:てのひらの範囲に米粒1個程度の分量を用いる
外用部位:アトピー性皮膚炎のある場所(ニキビ、ヘルペス、水イボ、飛び火、正常皮膚、ステロイド皮膚症には用いない)
いつまで塗るべきであるか?の3つの目安。
それぞれの皮疹において
(1)かゆみがなくなる
(2)赤い色がなくなる
(3)ガサガサ、ザラザラ、ブツブツが消えすべすべの皮膚に戻るまで外用を続けること。

約2週間余りの連日あるいは1日おきの外用で、この3つがそろえば、ステロイドの外用を一旦終了します。ここまでくれば、あとは短期間(数日)ワセリン等を薄く塗り、その後は何も塗らずに様子を見ます。左右に同じ外用剤を用いないことも外用剤のかぶれを見逃さないコツです。

《ステロイドを塗っているのに皮膚炎が治らない場合の対策》
一番多い誤りは、ステロイドの副作用を恐れる気持ちからステロイドが正しく塗れていない事です。すなわち、まだ皮膚炎が治りきらないうちに外用を中止し再び元の状態に戻る事や、皮膚炎の状態に比べステロイドを塗る回数が少なすぎたりして、皮膚炎が治りきらないまま、いつまでも不十分な効果のステロイドを塗り続ける場合がしばしばあります。主治医が「患者さんが適切にステロイドを塗っていない」と判断したなら、患者さんがステロイドのどんな副作用を恐れているのかを具体的に話し合いステロイドの副作用について正しく理解してもらうことが重要です。

《正しく塗っているのに新しい皮疹の出現が続く場合》
未だに患者さんにも主治医にも認識されていない皮膚炎を悪化させる原因(悪化因子)が入り続けているはずですのでこれを見つけて取り除く。特に経口的悪化因子の存在に気が付かない場合に、この状態をステロイドが効かなくなったと誤解することがありますので、細心の注意が必要です。ステロイド剤の内服中やタクロリムス軟膏使用中に新しい皮疹の出現が続く場合も悪化因子を見つけて取り除くことが必要です。*41,42(悪化因子の候補の見つけ方に沿って、原因検索を進めて下さい)





3. 二次的な精神的ストレスや緊張

悪化因子としての精神的要因は決して内在していない

アトピー性皮膚炎患者さんの精神は全く健全そのものであり内在的な精神の異常がアトピー性皮膚炎をつくりだしているのではありません。アトピー性皮膚炎の患者さんは自分をとりまく環境のさまざまな精神的なできごとがストレスとして作用し、しばしば皮膚炎を悪化させる。この環境の精神的ストレスと悪化した皮膚炎症状が相乗的に患者さんに作用し、特に成人期のアトピー性皮膚炎患者さんでは精神的に不安定な状態に追い込まれることは少なくありません。

臨床の現場で患者さんの治療に従事するものとして、患者さんの背景や辛い気持ちを少しでも理解することは不可欠ではありますが、皮膚科のスペシャリストとしては、この精神的変調は皮膚炎の存在による二次的な現象であることを肝に銘ずることが必要です。過去におおきな過ちの歴史がありますが、これを繰り返してはなりません。

ヨーロッパでは1891年にこの皮膚病患者に合併する精神神経的要因を強調したneurodermatitis diffusa, neurodermatitis disseminata, あるいはneurodermatitis constitutionalisの病名が本症に対して提唱され、広く使用されていました。*4 このneurodermatitisという病名が19世紀のヨーロッパで広く用いられた理由は、本症患者がしばしば通常の人よりも感受性が高く、激しい怒りを現しやすく、明らかな理由がなくとも泣きやすかったり、憂うつ的であったりして、その当時の医師が本症の病態の根底に精神的な問題が存在すると信じていたからです。*43

われわれは重症のアトピー性皮膚炎患者が激しい痒みを伴う皮膚症状が長期間続くと夜も眠れなくなり、19世紀末の本症患者のような精神状態に陥ることをしばしば経験します。しかし悪化因子の除去やステロイドを中心とした現代的治療の結果、皮膚症状が改善すると、それまでみられた精神的変調はすっかり消失し、これらの患者は心身ともの健常人と何ら変わりのない状態に変化することを知っています。*17 すなわち、現代に生きるわれわれ皮膚科医は皮膚炎(dermatitis)の存在が本来健全であった精神(neuro-)を変調させていたことを理解しています。メンタルな面の指導はあくまで補助的であり、皮膚炎から解放されるための基本的な知識や技術を駆使して、皮膚科的な日常生活指導を正しく行う事が皮膚科医の責務であります。




ステロイド外用剤の歴史と展望

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